がんだまぁBlog
ガンダムネタだけを語るブログです。
「革命家」としてのシャア・アズナブル
 エースパイロットとしてのシャア、あるいは悩める人間としてのシャアのキャラクター像というのは、割とよく語れてきたと思うのですが、思想家、あるいは革命家としての、シャアの主義主張とその行動についての分析というのは、あまりされてこなかったのではないかと思います。

 というわけで、とりわけ思想家であった父ジオン・ダイクンと比較するような形で、シャアの人間像について少し考察してみようと思います。

 まず、シャアが最後にやった事を振り返ります。彼がやろうとしたのは、小惑星アクシズを地球に落とす事、でした。その目的は、地球を人間が住めない環境にする事で強制的に全人類の宇宙移民を促す、というものでした。
 何故そんなことをする必要があったのかと言えば、それはそうすればアースノイドとスペースノイドの間にある軋轢がなくなる、ということが前提にあったのではないかと思います。全員スペースノイドになっちゃえばスペースノイドが差別される事も無くなるし、政策が地球優先になるようなこともない、と考えたのでしょう。
 これはとても短絡的な発想で、深くは論じませんが都会の人間が全員田舎に引っ越してきたところで、都会と田舎の人間の意識の差が埋まるかどうかということなわけです。ここでは別にシャアに突っ込みを入れるのが目的ではないのでそこには触れませんが。

 さて、それに対し父ジオンは何をやったかというと、サイド3の独立自治を政治的に達成するために活動し、連邦の承認こそ得られなかったものの、体制として独立国家としての形を整えるところまでは達成したことになっているかと思います。
 そしてジオンの思想を支えていたのが、人類は地球を聖地としてそこから離れるべきであるというエレズムと、各サイドは国家になるべきであるというサイドイズムでした。この2つを組み合わせ、人類は全てコロニーに住みそこで国家を作るべきだというコントリズムという思想を完成させたのがジオン・ダイクンです。
 もう一つジオンが唱えたのが、ニュータイプという理論でした。これは、スペースノイドが被差別対象だったことに対するカウンターとしての概念で、宇宙という環境に適応したスペースノイドこそ、人類の新たな種となり得る存在だという意味がありました。

 ここでは、ジオンとシャアを「スペースノイドの権利拡大」と「ニュータイプ思想」という2つの要素から比較してみたいと思います。

 まずスペースノイドの権利拡大についてですが、ジオンはこれを連邦からの独立という形で達成しようとしています。これは地球連邦によるコロニー管理体制を打破する事を最も直接的な目的としていたことになります。言ってみれば「ラプラスの箱」を開けたことと同じ事をそれなしでやろうとした、ということになるでしょうか。
 それに対しシャアは、スウィートウォーターでの演説などからもわかるように名目はスペースノイドの権利のために戦ったことになりますが、その直接の目的は地球の政治家や役人を宇宙に移住させる事だったことになるのではないかと思います。これはかつてブレックスが議会を通してやろうとした事と同じことであり、思想の影響が読み取れます。

 ここで分かるのは、シャアはジオンの思想の中のエレズムのみを継承したということです。シャアはスペースノイドの独立国家建設というものには興味がないようでした。ハマーンが執拗にサイド3にこだわったのに対し、シャアはスウィートウォーターというジオン共和国とは何ら関係のない難民コロニーのために決起していました。
 もっとも、これはジオン公国が挫折した事を間近で見たことで、コロニー国家の樹立は現実的ではないということを知ったからなのかもしれません。しかしそれ以上に、シャアはジオン信奉者に負けずにザビ家信奉者も残っているであろうジオン共和国には思い入れを持てなかったのかなとも思います。
 全ての人類を地球に上げる事を目的とするのであれば、ネックとなるのは宇宙に上がりたがらない人間をいかに上げるように仕向けられるかということになるのですが、上がりたがらない人間が上がらないだけの財力や政治力を持っているのであれば、物理的に上がらざるを得ない状況にしてしまえばいい、というのがシャアの結論だったのでしょう。


 もう一つがニュータイプ思想についての比較です。先に述べたようにジオンが提唱したニュータイプ論はアースノイド至上主義への反発、もっと言えばスペースノイドに自尊心を与えるために唱えられたものであったのではないかと思います。
 一方でシャアにとってニュータイプとは、もっと具体的な、現実に進化した人類だったように思えます。それこそララァやアムロのような存在こそがニュータイプである、ということが前提でした。
 シャアは何度も「人類全てがニュータイプになれば」というようなことを口にしています。ニュータイプがスペースノイドに希望を与えるための方便ではなく、具体的に存在する事象であると理解し、人類はそれになるべきである、という考えがあったように思えます。
 実際に、特別な感応波を持ちテレパシー的な能力を持った人間が現れたことで、それがニュータイプなのではないかと言われるようにはなっていたのですが、そんな特別な能力を実際に備えている存在こそが父ジオンが提唱したニュータイプであると、誰よりも信じてしまったのがシャアだったのです。
 何故そう思えたのかというのが、まさにララァ・スンの存在だったのではないかと思います。彼女があまりにもニュータイプという言葉を当てはめるには理想的な存在であったが故に、シャアはニュータイプとはララァのような存在であると認識するようになったのではないでしょうか。
 シャアがニュータイプという存在に対してどのような感情を抱いていたかということについては、今後別に考察してみようと思います。

 以上のことから言えるシャアとジオンの違いは、「サイドイズムの有無」と「ニュータイプの具体性の有無」なのではないかと思います。
 それを前提に、シャアは世界をどうしたかったのか、ということを考えてみると、まずジオンが目指したのがアースノイドとスペースノイドがあらゆる意味で対等に渡り合える世界を作りたかったのに対し、シャアが目指したのは人類全てが宇宙に住む世界を作りたかったと言うことができます。
 そのシャアの思想の背景には、人類全体が宇宙に上がれば、人類全体がニュータイプになれる、という考えがあります。ジオンは決して人類をニュータイプにしようと思っていたのではなく、単純に人類平等の思想を宇宙世紀という時代に反映させて実行していただけに過ぎません。両者の違いは、結果的に「ニュータイプの具体性の有無」に集約することができるのです。

 つまり、シャアは思想家としてどのような人間であったかというと、「ニュータイプの存在を現実に信じた人間」であったと言えるのではないかと思います。そうなった背景にララァの存在があったわけですから、そのララァを「母となってくれるかもしれなかった女性」と表現したシャアの感情は、決してマザコン的な意味ではなく、自分が今後生きていくための指針(=ニュータイプという存在の具現化)を与えてくれるはずだった、という意味が込められていたのかもしれません。
 最も、シャアがニュータイプを現実に存在すると信じるようになった原点はジンバ・ラルにあります。セイラは「ジンバ・ラルはニュータイプは人類全体が変わるべき理想のタイプだと教えてくれた」と言っています。その言葉を信じるきっかけになったのが、ララァの存在だったのでしょう。
 シャアはテキサスコロニーでセイラと再会した時点で、「ザビ家を連邦が倒すだけでは人類の真の平和は得られないと悟った」と語っています。その後ニュータイプが発生したからだと言っていますから、この時点ですでに人類が平和になるためにはニュータイプになる必要があると思っていたことが伺えます。
 しかしララァが死んだことでその理想は一旦潰えます。しかも同じニュータイプのアムロに殺されたわけですから、人類の理想形であるはずのニュータイプが殺し合い、また戦争の道具として消費されるという事実は受け入れ難いものでした。新たなニュータイプであるカミーユにも可能性を見出しますが、そのカミーユも過酷な現実に押しつぶされてしまいます(そういう意味で、新訳の世界でシャアが決起するにはちょっと動機が弱い?)。そしてシャアは結論付けるのです。ニュータイプの覚醒を今の世の中が阻害しているのだ、と。

 こうしてシャアは世直しに走ったことになるのではないか、と思います。しかし思想はともかくその方法論についてはもう少しどうにかならなかったのかと思いますね。もしララァが生きていれば、あるいはファースト小説版のシャアであれば、その矛先を直接世の中には向けず、ニュータイプに覚醒した人間を探し、同志に迎え入れるというジャミルのような行為に走っていたんじゃないかなと思うのですが。
スポンサーサイト
コメント
コメント
この考察を読むと、シャアさんは
「無責任で他人任せな夢想的革命家」
としか読めないなぁ・・・
案外間違っていないと思えてしまうのが、なんとも

・幾ら腐敗しようと人類の統治を粛々と行った地球連邦
・戦後の人類の管理について考えていたギレンやジャミトフ(その手法・思想の是非はともかく)
上記の方々・組織の方が余程責任感あるし、しっかりしていると思える
少しシャアに厳し過ぎると思うけど・・・

シャア好きのみなさん、怒らないでください(無理か・・
2011/01/25 (火) 20:28:28 | URL | トロント #-[ 編集 ]
>>トロント様
シャア好きですが、あなたの意見に全面的に賛成です。
シャアのそういうところは、あんまりこういうこと言っちゃいけないけれども、その“生みの親”の影響が大きいかと。
“生みの親”の官僚とかお役所に対する批判的な発言は有名ですから。
ただし、“生みの親”も地球連邦やギレン・ジャミトフのほうがよほどしっかりしているというのはわかっていたかと。
シャア(というか、“生みの親”のダークサイド)が間違っているとわかっていたからこその、シャアのあの役回りなんでしょうね
2011/01/27 (木) 00:20:28 | URL | 量産型ROM民 #-[ 編集 ]
>トロントさん
間違ってないと思いますね(笑)

世の中にはこうなって欲しい、という理想はあるけれど、
自分は好きなことだけをやっていたい、という願望も持っている人間ですからね。

>量産型ROM民さん
"生みの親"が世間に縛られずにいる姿がシャアであり、
逆に世間に縛られた姿がアムロであり、
自分に権力や財力があればこうするのに、というのがギレンやジャミトフってところでしょうかね。
作り手のパーソナリティがしっかり反映されているから、
人間くさいキャラクターを作れるんでしょうね。
2011/02/03 (木) 23:42:11 | URL | ルロイ #-[ 編集 ]
はじめまして
ルロイさんの考察とても楽しく読ませていただいています。 私もしばしガンダムから離れていたのですがまた当然10何年ぶりに戻って(?)きてしまいました。 小説を読み直したり、DVDを観たりしていますが今観るとまた違って面白い。 理系の癖に歴史好き、心理学にはまった私はシャアのことを分析しようと試みてしまいました。 それは一番わかりにくいキャラクターはシャアだったからです。 彼の行動はなんというか一貫性がまるでない。(わたしにとってですが) そこでルロイさんのコメントで ”世間に縛られる”を読んでなるほど!と開眼しました。 私自身、最近ではもう解明しようというのはあきらめよう、おそらく、シャアという人が一番メッセージ色の強い台詞を言わせやすいキャラクターだからかなと。そのときそのときにクリエーター側がいいたいこと、もしくは言いたくないことを言わせる、狂言回し役なのが彼で固定された人格(キャラ設定)はないんじゃないかと諦観しつつありました。 (そこまで二次元の人物に考察してしまう自分は追いといてください)。
シャアの行動を観て思うのは、話ごとにきり話して考えるとまた印象が変わりますよね。Zのあとのシリーズがなければ、Zでの行動があそこまで叩かれることにもならなかったような。 (なんでも責任放棄、丸投げ、云々)
こうしてほかの人の考えをこちらで読ませていただけて、シャアのことを分析してるのは自分だけじゃないのだなとわかってうれしいです。
2011/03/23 (水) 05:13:51 | URL | シキ #sCExAI9M[ 編集 ]
初めまして、書き込みありがとうございます。

シャアは富野監督の負の感情を具現化したような部分があるキャラですから、
一貫性がなく見えるとしたらそれは富野監督の心境の変化そのものなのではないかと思います。
シャアを分析するのに手っ取り早いのは、富野監督そのものを知ることだと思いますよ。
2011/03/30 (水) 22:38:35 | URL | ルロイ #-[ 編集 ]
ZZをどう位置づけるかで変わるような
ハマーンとジュドーの場合が、それまでのガンダムシリーズのNTたちから一歩進んだ段階で理解しあっていますので・・・

・敵と味方双方にサイコフレームを持たせて激突させる
・全ての人類が同じような環境で暮らせるようにスタートラインをリセットする
・全ての人類に等しく生存リスクを課す

あたりの実験は、シャアとしてもやってみる価値はあったのかなと思います。シャア自身も結論に何も確信持ててない実験ですが。
2011/11/02 (水) 15:21:27 | URL | ナタル #.ZWFf9ps[ 編集 ]
シャアって、カミーユの覚醒状態もジュドーの覚醒状態も見たことがないんですよね。
だから、本当の意味での「ニュータイプの可能性」っていうもの自体を知らなかったんじゃないかと思います。
あくまでもファーストガンダムの時点のニュータイプしか知らないシャアが、
その時点での理想論を頂点として構築した思想が「人類を宇宙に上げればニュータイプの覚醒が早まる」というものだったんじゃないかと。
2011/11/04 (金) 20:39:33 | URL | ルロイ #-[ 編集 ]
コメントの投稿
URL:
本文:
パスワード:
非公開コメント: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
トラックバック URL
トラックバック
copyright © 2017 がんだまぁBlog all rights reserved.
Powered by FC2ブログ.